結核治療にお灸が効果を発揮 免疫細胞を活性化するお灸
新型コロナウイルスに対する緊急事態宣言の1ヵ月間の継続が発表されました。
まだまだ先行きが見えないなかで、新生活様式も発表され、しばらくは新型コロナウイルスと向き合っていかねばならない状況です。
また、感染拡大が縮小しても第2波への備えが必要とも言われています。
新型コロナウイルスの感染と重症化を予防し、新型コロナウイルスに負けないためには、免疫機能の低下を防ぎ、体調を万全に整えておくことが重要です。
鍼灸治療は免疫機能に影響を与えることが分かっています。
新型コロナウイルス感染症と同じ結核菌による感染症である結核。
その結核治療にお灸が用いられ良好な結果が得られています。
お灸は千年以上も前から病気の治療や予防など、日本人の健康を守るために用いられてきたセルフケアです。
近年ではお灸をする人が減っていますが、この機会に日本の文化とも言えるお灸を見直し、体調管理にお灸を活用して頂きたいと考えています。
結核治療のお灸について紹介します。
お灸をしてカラダを調え、免疫機能を高めましょう。
※灸治療が新型コロナウイルスに限定して治療・予防効果があるというもではありません。
目次
- ○ 結核治療に用いられるお灸
- ・結核という病気 −実は現在でも日本は結核の「中まん延国」−
- ・日本のお灸がアフリカで結核治療に貢献 -お灸が症状の改善と免疫細胞を活性化-
- ○ モクサアフリカは「お灸博士」と呼ばれた日本人医師との出会いから始まった
- ○ お灸でセルフケア −お灸で体調をととのえ、免疫機能を正常に保ちましょう−
- ○ まとめ
結核治療に用いられるお灸
結核という病気 −実は現在でも日本は結核の「中まん延国」−
結核は結核菌により引き起こされる感染症で、全世界で年間に約1000万人が結核と診断され、約150万人が死亡しています。
結核による死者の9割以上は低中所得国であり、特にアフリカでは世界のなかでも死者が多くなっています。
アフリカで結核患者が多いのは、貧困による栄養状態や生活環境が良くないことが原因と言われています。
また、アフリカではAIDS(エイズ)患者も多いことが大きな原因となっています。
結核菌に感染しても正常に免疫機能が働いていれば、無症状か軽い症状で済みます。
しかし、AIDS患者では免疫機能が著しく低下し、通常ではおこらない日和見感染を起こすため、結核菌に感染すると、抵抗できないため容易に発病するのです。
また、これまでの抗菌剤が効かない多剤耐性結核や超多剤耐性結核の増加も問題となっています。
日本では、明治初期までは労咳と呼ばれて死の病として恐れられていましたが、1940年代に抗結核薬が開発され、その後、発病者数は減少しました。
しかし、2000年以降は毎年2万人が発病し、近年でも1年間に約1万8000人が結核にかかり、約1900人が死亡しています。
欧米の先進国は、結核罹患率が人口10万人あたり10人以下の“低まん延国であるのに対して、日本では人口10万人あたり13.3人の“中まん延国”と言われています。
結核は昔の病気ではなく、現在でも日本最大の感染症なのです。
日本のお灸がアフリカで結核治療に貢献 -お灸が症状の改善と免疫細胞を活性化-
イギリス人鍼灸師のMerlin Young(マーリン・ヤング)先生が代表を務める慈善団体のMoxafrica(モクサアフリカ)は、2008年よりアフリカでお灸による結核患者の治療に取り組んでいます。
Moxa(モクサ)とは艾(モグサ)のことで、お灸の際に皮膚上で燃やすヨモギの葉の裏にはえている毛を精製したものです。
治療とはいっても実際に鍼灸師が患者にお灸をするのではなく、現地の看護師などの医療スタッフにツボの位置やお灸の方法などを指導、モグサの提供を行い、お灸は患者自身に行ってもらうセルフケアで行っています。
最初の試みでは、お灸によって結核患者の体力と食欲が回復し、薬の副作用である関節の痛みや疲労感の改善がみられたそうです。
さらにウガンダのマケレレ大学と共同で、お灸による結核治療の臨床試験が行われています。
抗結核薬の治療とお灸を併用したグループ(90人)と抗結核薬の治療のみのグループ(90人)にわけてお灸の効果を検討しました。
この中にはAIDSを発病している患者も含まれています。
お灸の方法は、モグサを米粒くらいの大きさにして直接、皮膚にすえる方法で、足三里というツボに7壮、両足あわせて14壮を毎日、患者自身が行いました。
その結果、免疫細胞の一つであるCD4陽性T細胞の数が、抗結核薬の治療のみのグループに比べてお灸を併用したグループの方が多く増加していました。
T細胞はリンパ球の1つで、その中でもCD4陽性細胞はヘルパーT細胞と呼ばれ、免疫の指令塔の役割をしています。
AIDSを発症するウイルスであるHIVは、CD4リンパ球に感染して破壊し、免疫機能を低下させます。
以上の研究結果からお灸は免疫機能を高め、結核やAIDSの治療に役立つことが示されました。
この研究結果は『European Journal of Integrative Medicine』に論文として報告されています。
また、モクサアフリカの活動が、2018年9月にNHKで放送された『東洋医学 ホントのチカラ』で紹介されました。
詳しくはコチラ 「お灸は世界を変える」 せんねん灸オフィシャルサイト(セネファ社)
モクサアフリカは「お灸博士」と呼ばれた日本人医師との出会いから始まった
マーリン・ヤング先生が日本の鍼灸を勉強している際に、ある日本人医師の業績から結核の治療にお灸が有効であることを知り、アフリカの結核患者を救いたいとの思いから、アフリカでのお灸治療を始めたそうです。
昭和の初め頃に結核に対するお灸の効果について研究した日本人医師がおられました。
原 志免太郎(はら しめたろう)博士です。
原先生は九州帝国大学でお灸の研究を行い、結核に感染したウサギにお灸をすると免疫機能が高まることを証明した論文「灸の血色素量並びに赤血球数に及ぼす影響」を発表し、医学博士の学位を取得したことから「お灸博士」と呼ばれています。
原先生の研究によると、お灸により免疫細胞である白血球が増加して活性が増すことや結核菌に感染する前からお灸をする方が良い結果が得られることがわかっています。
つまり感染症にかかる前の健康な時からお灸をしている方が良いということです。
原先生は研究だけでなく、福岡市に病院を開設し、結核患者のお灸治療に尽力されました。その数は25万人以上にも及ぶそうです。
この時期は昭和の初期であり、まだ有効な抗結核薬ができていない時代です。
また、ご自身でも毎日、足三里のツボにお灸をして健康を保ち、104歳まで現役で診療に従事し、108歳まで生きられました。
当時、男性の長寿日本一だったそうです。
『万病に効くお灸療法』、『灸法の医学的研究』、『新しい灸学』などの著書を残されています。
お灸でセルフケア −お灸で体調をととのえ、免疫機能を正常に保ちましょう−
お灸は古くから症状の改善や健康管理など日本人のセルフケアに利用されてきました。
多くの書物にお灸について記載があり、その様子を知ることができます。
「灸は身をやくものにあらず 心に灯りをともすものなり」 弘法大師(空海) 平安時代
弘法大師が全国にお灸を広めたと言われています。
『四十以後の人、身に灸を加えて三里を焼かざれば、上気(のぼせ)のことあり。必ず灸すべし』 吉田兼好 「徒然草」 鎌倉時代
『もも引きの破やぶれをつづり笠の緒付けかえて、三里に灸すうるより、松島の月まず心にかかりて』 松尾芭蕉 「奥の細道」 江戸時代
徒歩での長旅にそなえて足三里のツボに灸をしました。足三里は健脚のツボとも言われ、足三里にお灸の痕が残っていない人とは旅をするなと言われたそうです。
『三里を、毎日一壮づつ灸する人あり。これまた時気をふせぎ、風(中風)を退け、上気を下し、………胃気をひらき、食をすすむ、もっとも益ありと云いう』 貝原益軒 「養生訓」 江戸時代
中風は今で言う脳卒中。足三里は胃腸を調える、病気予防の万能のツボとして用いられてきました。
『風の子や 裸で逃げる 寒の灸』 小林一茶 江戸時代
寒の灸は、寒い冬にお灸して体を温め、寒さから病気を予防するために行われました。俳句の冬の季語に使われています。
足三里は鍼灸治療でも最もよく用いられるツボで、足三里の刺激は自律神経に作用し、胃腸機能の調整、免疫機能の活性化、血行促進、鎮痛、リラクゼーションなど様々な効果が得られます。
毎日あるいは1、2日おきに足三里にお灸をして体調をととのえましょう。
継続して行うことが大切です。
「足三里」の位置
ヒザの皿(膝蓋骨)の外側の下のくぼみから指4本分下にさがったスネの骨の外側
まとめ
お灸治療がアフリカで感染症であるAIDSや結核の治療に用いられ、足三里へのお灸が症状を改善し、免疫細胞を活性化することが確認されています。
モクサアフリカの代表であるイギリスの鍼灸師のマーリン・ヤング先生は、「日本のお灸は日本文化の宝」と日本のお灸を賞賛されています。
新型コロナウイルス禍による行動制限が続いています。
自宅でお灸をしてコロナストレス・コロナ疲れを解消しましょう。
お灸で免疫機能を活性化して、コロナに負けないように体調をととのえましょう。
当院ではセルフケアのお灸の仕方、ツボのとり方をレクチャーしています。お気軽にご相談下さい。