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エビデンス

コロナ後遺症(long COVID)の症状の対処法としての経皮的耳介迷走神経刺激(taVNS)のパイロットRCT

2022年に『Bioelectronic medicine』という医学雑誌に掲載されたコロナ後遺症(long COVID)に対する経皮的耳介迷走神経刺激治療(taVNS;transcutaneous auricular vagus nerve stimulation)の効果に関する論文を紹介します。

この研究は、アメリカのサウスカロライナ医科大学Medical University of South Carolina)で行われたものです。

 

Badran BW, Huffman SM, Dancy M et al:A pilot randomized controlled trial of supervised, at-home, self-administered transcutaneous auricular vagus nerve stimulation (taVNS) to manage long COVID symptoms. Bioelectron Med. 25;8(1):13. 2022.

 

コロナ後遺症(long COVID)患者に4週間の継続した経皮的耳介迷走神経刺激治療(tVNS)を患者自身が自宅で行い、シャム(偽)の経皮的耳介迷走神経刺激治療(stVNS)との効果の差について調べた結果、真の経皮的耳介迷走神経刺激治療(tVNS)の方が、コロナ後遺症(long COVID)の症状を軽減したこと、自宅で患者自身が行うことの安全性を報告しています。

目次

研究の背景

SARS-CoV-2(SARSコロナウイルス2)の感染直後に起こる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の急性臨床症状は、無症候性から入院や死亡に導く呼吸器と循環器の重篤な苦痛まで広い範囲にわたる。

急性症状の治療は進歩しているけれども、コロナ後遺症(long COVID)として言及されるCOVID-19の感染から生じる持続する二次的な症状は、効果的な治療が制限され数週間から数か月間、苦しめられる。

コロナ後遺症(long COVID)は、異質な症状が複合されたものであり、障害と仕事の制限をきたす。

世界保健機構(WHO)は、コロナ後遺症(long COVID)を「SARS-CoV-2(SARSコロナウイルス2)感染の可能性があるか、または確認された病歴を持つ個人に起こり、通常は発症から3カ月で症状は少なくとも2カ月間続き、代替の診断では説明することができない状態」と定義している。

コロナ後遺症(long COVID)は、疲労感、呼吸困難、筋骨格の痛み、味覚・臭覚の消失、発熱、ブレインフォグなどの中枢と末梢システムに関係する多くの症状や不安感やうつ症状のような神経精神学的状態の新たな発症を有する。

コロナ後遺症(long COVID)の症状の病態生理となぜ持続するのかはまだ不明であるが、持続あるいは進展する症状は、感染後の炎症反応の維持と長引く免疫反応のせいかもしれない。

非侵襲的脳刺激(NIBS;Non-invasive brain stimulation)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対処するための可能性のあるアプローチとして示唆されている。

経皮的迷走神経刺激(taVNS;transcutaneous auricular vagus nerve stimulation)は、ヒトの両側の耳介に分布している迷走神経の耳介枝(ABVN;auricular branch of the vagus nerve)を刺激するものである。

迷走神経の耳介枝(ABVN)の刺激には、有望な抗炎症効果、鎮痛、抗うつ効果が証明されている。

これらの効果は、中枢と末梢の両方を活性化させる迷走神経を介して起こる。

我々はリモートでモニターされたtaVNS治療が、患者自身で行うことができるか、およびセルフで行うtaVNS治療(1日2回で4週間)がコロナ後遺症(long COVID)の症状を軽減できるかを検討した。

研究概要

4週間、二重盲検(double-blind)、シャム(偽)の対象群(sham-controlled)を設定し、コロナ後遺症(long COVID)の症状の対処法として、自宅にてセルフで行う経皮的迷走神経刺激(taVNS;transcutaneous auricular vagus nerve stimulation)の効果について検討した。

【研究行程】
パートⅠ;最初の2週間は二重盲検のランダム化比較試験(RCT)を行った。
パートⅡ;次の2週間はすべての被験者が真のtaVNS治療を受けるオープン試験を行った。

taVNS治療は、患者自身がセルフで自宅あるいは職場にて、1日2回で週6日、計4週間行った。

研究対象

以前の検査で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)陽性の13人(女性8人)をリクルートしたが、1人が除外されて12人が対象となった。

本研究は2020年11月〜2021年8月までの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの期間に行われた。

【参加基準】
・18歳以上
・無熱
・検査による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の確認
・以下のコロナ後遺症(long COVID)の症状が少なくとも1つある;不安感,うつ,めまい,臭覚障害,味覚障害,頭痛,疲労感,過敏性,ブレインフォグ
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)改善後に虚血性あるいは出血性脳卒中がないこと

研究方法

taVNS治療は、粘着性のハイドロゲル電極を左側の耳介に装着して行った。電極は耳甲介舟(cymba conchae)と耳珠(tragus)に装着した。

taVNSは、25Hzで1時間、1日に2回で週6日間行った。
電流強度は個人の知覚閾値(PT;perceptual threshold)の2倍に設定した。
シャム(偽)のtaVNSでは電流が流れない(0mA)ように設定された。
taVNSの安全性を1時間のtaVNSを行っている間に血圧と心拍を測定することによりモニターした。

症状の評価

・General Anxiety Disorder(全般性不安障害)-7 (GAD7)
・Clinical Global Impression Improvement(臨床全般印象改善尺度) (CGI-I)
・Clinical Global Impression Severity(臨床全般印象・重症度スコア) (CGI-S)
・Global Assessment of Functioning(機能の全体的評定尺度) (GAF)
・COVID questionnaire(新型コロナウイルス感染症に関する問診票)
・Connor Davidson Resilience Scale(コナー・デビッドソン回復力尺度) (CDRS)
・abbreviated PTSD Checklist (簡易PTSDチェックリスト)(PCL6)
・Perceived Stress Scale(知覚されたストレス尺度) (PSS10)
・Patient Health Questionnaires (PHQ4, PHQ9)
・pain scale
・mental fatigue scale(精神疲労スケール)
・fatigue severity scale(疲労重症度スケール)
・modifi ed fatigue impact scale(修正疲労影響尺度)
・subjective smell assessment(主観的臭覚評価)
・Montreal Cognitive Assessment(モントリオール認知評価) (MOCA)

結果

taVNS治療の安全性

予期せぬ有害事象は研究期間中起こらなかった。2例の軽度の皮膚刺激症状があった。

taVNS治療は、有害な心血管系イベントを起こさなかった。

最初から6回までのtaVNS治療中に心拍数を記録した。

シャム(偽)のtaVNS治療群と真のtaVNS治療群ともに、心拍数は成人の正常範囲内で安全であり、心血管系に関連する副作用も示さなかった。

コロナ後遺症(long COVID)の症状の改善

9つの特別なコロナ後遺症(long COVID)の症状(不安感、うつ、めまい、臭覚障害,味覚障害,頭痛,疲労感,過敏性,ブレインフォグ)をモニターした。

9つの症状の割合(パーセンテージ)をコロナ後遺症(long COVID)のメタインジケーター(meta-indicator)として計算した。

治療前では、シャム(偽)のtaVNS治療群で症状の割合が高かった(偽のtaVNS治療群;66%,真のtaVNS治療群;46%)。

2週間の治療後、シャム(偽)のtaVNS治療群では症状の改善がみられなかった(68%)が、真のtaVNS治療群では症状の割合が減少した(31%)。

4週間後では、シャム(偽)のtaVNS治療群と真のtaVNS治療群ともに症状の割合は38%であった。

治療修了後のフォローアップ期間中には、シャム(偽)のtaVNS治療群では症状が悪化した。

治療終了から4週間後では、シャム(偽)のtaVNS治療群では症状の割合が56%であったのに対して、真のtaVNS治療群では23%と症状の割合が減少した。

精神的疲労の改善

最初の2週間にシャム(偽)のtaVNS治療を受けた群では、精神的疲労の症状が軽度、改善していたが、4週間を通して真のtaVNS治療を受けた群では、精神的疲労のスコアが大きく減少した。

考察

我々は、自宅においてコロナ後遺症(long COVID)に対処するための方法として、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)初期のパンデミック(2020–2021)の間に、自己実施によるtaVNS治療システムの使用を検討した。

taVNSの刺激は安全で、徐脈や深刻な有害事象は起こらなかった。また、コロナ後遺症(long COVID)の症状と精神的疲労の軽度の改善がみられた。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが始まって2年がたち、持続的ではないが長期のSARS-CoV-2(SARSコロナウイルス2)ウイルスの影響はまだ分かっていない。
コロナ後遺症(long COVID)は、中枢と末梢の症状が含まれる複合的で異質的な疾患である。
主な仮説はこれらの長引く症状は、神経の炎症反応の広がりによるものとされている。
興味深いことに迷走神経刺激(VNS)療法は、難治性てんかんの治療として1997年よりヒトに対して使われているけれども、近年では関節リウマチ(RA)などのヒトの炎症性疾患に対する迷走神経刺激(VNS)の使用が増加している。
これらの抗炎症効果が動物モデルにおいて検証されている。
免疫機能の中枢性の調節を介する細胞と分子、中枢のメカニズムが、サイトカインストームの減弱や炎症反応を介した迷走神経の活性化を示唆している。
非侵襲的な迷走神経刺激(VNS)(ガンマコア(gamma Core)治療器によって頚部の迷走神経を電気刺激する方法)による以前の研究において、迷走神経の刺激が97人の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者において軽度の抗炎症効果があったことを示唆している。

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