腸を整えるツボ刺激 −便秘や下痢に効果のあるツボ−
ツボは正式には経穴（けいけつ）と言い、2,000年以上前の古代中国で考え出されました。ツボに鍼やお灸で刺激を与えることで痛みが軽減することや様々な症状が緩和されたり体調が改善されたりすることが経験的に見いだされてきました。
近年では世界的に鍼灸やツボの研究が行われ、その効果やメカニズムが実証されています。便秘や下痢、過敏性腸症候群に対する鍼灸施術の効果についても研究が行われています。
ここでは腸の蠕動運動を調整し、便秘や下痢に効果のあるツボを紹介します。
くわしくはこちらもご覧下さい。「便秘と鍼灸治療」
目次
- ○ 下肢のツボ
- ○ 手・お腹のツボ
- ○ 腸の蠕動運動・便秘・下痢に対するツボ刺激の効果
- ・ツボへの鍼刺激で腸の蠕動運動が活発に
- ・ツボへの刺激は腸だけでなく同時に胃も整えます
- ・便秘や下痢の症状を和らげる温灸のセルフケアの効果
- ○ まとめ
下肢のツボ
足三里（あしさんり）
場所：ヒザの皿（膝蓋骨）の下のくぼみから指４本分下にさがったスネの骨の外側
胃腸をはじめ身体全体の調子を整えます。健康増進のツボ。松尾芭蕉の『奥の細道』に「足の三里に灸をすえて旅にそなえた」ことも記載されています。最も有名なツボ。
上巨虚（じょうこきょ）
場所：足三里から指４本分下にさがったスネの骨の外側
三陰交（さんいんこう）
場所：足の内側のくるぶしから指４本分上で、スネの骨の内側のくぼみ
胃腸を整えるだけでなく、「女三里」とも呼ばれ、女性の症状（月経痛，月経不順，月経前症候群，更年期障害，不妊など）に効果があります。
手・お腹のツボ
合谷（ごうこく）
場所：親指と人差し指の骨の付け根の前で、人差し指よりの所
目の症状、歯の痛みなど首から上の症状に効果的。ほかにも肩こり、便秘、下痢などの便通異常、ストレスなど万能のツボ
中脘（ちゅうかん）
場所：みぞおちとへそとの中央
胃腸の調子を整えます。
天枢（てんすう）
へそから指３本分横
便秘、下痢など腸の調子を整えます。
大巨（だいこ）
場所：天枢から指３本分下
関元（かんげん）
場所：へそから指４本分下
胃腸の症状、冷え症、生理痛など女性特有の症状にも効果があります。
古くから「臍下丹田」と呼ばれ、気が集まる場所として、重要なツボとされてきました。
腸の蠕動運動・便秘・下痢に対するツボ刺激の効果
ツボへの鍼刺激で腸の蠕動運動が活発に
下腹部に高感度のマイクロフォンを装着して、腸音を記録しながら、手の合谷と下腿の足三里に鍼刺激を行いました。鍼刺激はそれぞれのツボに鍼を約１cmほど刺入して、10分間、刺入したまま放置しました（置鍼）。
図は腸音の記録波形です。黄色のバーのところで鍼刺激を行っています。刺激前に比べて刺激後に腸音の頻度・強さが増加しました。
手や下腿のツボを刺激すると腸が活発になることが示されました。
ツボへの刺激は腸だけでなく同時に胃も整えます
慢性的なストレスが原因で腹痛や下痢・便秘がおこる過敏性腸症候群では、腸のだけでなく胃の機能が低下し食欲不振や胃もたれなどの症状がみられることがあります。また、ストレスが原因で胃の機能が低下する機能性ディスペプシアという病態もあります。
実験動物のラット（ねずみ）にストレスを負荷すると、胃の働きが低下する一方で、大腸の蠕動運動は亢進します。
図の上のグラフで、正常な場合（白バー）に比べてストレスを負荷すると胃の排出力が低下しますが（黒バー）、足三里に相当する部位に鍼をして電気刺激を与えると胃の排出力が改善しました（赤バー）。
下のグラフでは、正常な場合（白バー）に比べてストレスを負荷すると大腸の蠕動運動が亢進しますが（黒バー）、足三里に相当する部位に鍼をして電気刺激を与えると大腸の蠕動運動が改善しました（黄バー）。
下腿にある足三里へのツボ刺激は、腸の蠕動運動を整えるだけでなく、同時に胃の働きも整える可能性が示されました。
便秘や下痢の症状を和らげる温灸のセルフケアの効果
便秘や下痢で残便感や腹痛、腹部膨満感などの不快感がある人（12名）に、自宅でせんねん灸によるセルフケアを行ってもらいました（4週間の間に計10回）。
お腹の天枢、下腿の足三里、三陰交のツボへの温灸セルフケアによって残便感や腹痛、腹部膨満感などの不快感の割合が減少しました。また、適度な普通便の割合が増加したことから、便の状態が改善したと考えられました。
まとめ
私達の先人が経験的に見いだし、数千年にわたり受け継がれてきたツボ（経穴）。
近年ではその効果が多くの研究で検証されています。
便秘や下痢など胃腸に対するツボ刺激の効果についても、ツボ刺激によって自律神経を介して胃腸の働きを整えることが実証されています。
ただ実際に便秘や下痢などお腹の調子を整えるには数回の鍼灸治療では難しいのも事実です。また、個人差や程度の違いも影響します。
当院では、定期的な鍼灸治療と自宅でできるせんねん灸によるセルフケアを組み合わせて、個別の最適な施術プランをご提案しています。
また、最近注目されている腸内フローラ（腸内環境）を整えるために、当院で契約している腸内細菌検査やプロバイオティクスのサプリメントのご提案、食事やライフスタイルのアドバイスなども合わせて行っています。
便秘や下痢、過敏性腸症候群などお腹の不調でお悩みの方、下剤など薬を減らしたい方、腸内フローラ（腸内環境）を調べてお腹を整えたい方など是非、ご相談下さい。