当院の鍼灸治療例 −便秘が改善。10年間毎日飲み続けていた便秘薬の服用がゼロに−
慢性の便秘で便秘薬(下剤)を使われている方も多いかと思います。
便秘薬には、便を軟らかくしてカサを増やすもの(塩類下剤)や腸を刺激して蠕動運動を促すもの(刺激性下剤)、漢方薬など様々な種類があります。
この他にも最近では、作用機序の違う新しいタイプの便秘薬が次々と登場しています。
便秘薬にも何かしらの副作用があり、特に刺激性下剤は常用すると次第に効き目がなくなることから連用しがちになったり(依存性)、腸にダメージを与えてしまうことがあります。
ひどくなると薬を飲んでもすっきりと排便ができなくなり、頻繁に便意や腹痛があるため、日常生活にも支障をきたすこともあります。
しかし、「便秘薬をやめてしまうとお通じがなくなってしまう」との心配から、なかなか便秘薬を手放せない方も多いのではないでしょうか。
便秘薬を飲み続けていても多くの場合、自然な排便が期待できるものではありません。
便秘を改善するには、便秘薬に頼らない自然な排便に徐々にもどしていくことが大切だと考えます。
排便がなくなることの心配から10年間飲み続けていた便秘薬の服用がゼロに出来た鍼灸治療例を紹介します。
目次
- ○ 【50代 女性】長年の便秘で10年前より便秘薬を服用
- ○ 排便状態のチェック方法
- ○ 防風通聖散
- ○ 鍼灸治療の経過
- ・鍼灸治療開始時(防風通聖散を9錠服用していた時の排便の状況)
- ・鍼灸治療10回目(防風通聖散を7あるいは6錠服用していた時の排便の状況)
- ・鍼灸治療15回目(防風通聖散を4錠服用していた時の排便の状況)
- ・鍼灸治療20回目(防風通聖散の服用をやめた時の排便の状況)
- ○ まとめ
【50代 女性】長年の便秘で10年前より便秘薬を服用
高校生の頃より便秘。
10年くらい前より毎日、漢方薬の防風通聖散を排便目的で服用されています。
それ以前は市販の下剤を服用されていました。
防風通聖散は、以前は1日に27錠服用していたが、現在は1日9錠
排便回数;1回/日
便;ブリストル便形状スケールの①;コロコロで硬い便(兎糞便)
排便は毎日あるが、残便感や膨満感、腹痛も時々あり、すっきりでない状態でした。
排便状態のチェック方法
排便状態のチェックには、毎日の排便を「排便日誌」として記録してもらいます。
その日の排便回数、便の状態、残便感、便の量、腹痛、膨満感、下剤の服用状況(回数、量)などを記録します。
その中でも重要なものが便の状態です。
便の状態は、ブリストルの便形状スケールをもとに判断します。
ブリストルの便形状スケールは、英国のブリストル大学のオドネル博士らが、1990年にBMJ(英国医師会雑誌)に発表した論文に記載された便形状のスケールで、世界中で用いられています。
4が理想的な便(普通便)とされます。
1のコロコロ便や2の硬い便が多い場合は便秘、6の泥状便や7の水様便が多い場合は下痢と判断できます。
防風通聖散
防風通聖散は、肥満症で腹部膨満感の強い便秘に用いられる漢方薬です。
効能としては、腹部に皮下脂肪が多い肥満、便秘、むくみ、高血圧の随伴症状(動悸、肩こり、のぼせ)などとなっています。
18種類の生薬が配合されていますが、そのうち下剤効果のあるものは、大黄(だいおう)と芒硝(ぼうしょう)です。
大黄は、代表的な瀉下剤(過剰なものを捨てる方剤)で、下剤として多用されます。
大黄の主成分はセンノシド類で、大腸を刺激する刺激性下剤として使われます。
センナ、大黄などのアントラキノン系の刺激性下剤は、依存性があるため常用は好ましくないと言われています。
また、連用すると大腸壁に色素が沈着して大腸の運動が低下し、便秘が悪化したり下剤への反応性が低下する大腸メラノーシスと呼ばれる病態になります。
芒硝は、硫酸ナトリウム10水和物のことで、便を柔らかくする塩基性下剤としての作用があり緩下剤として用いられます。
副作用
注意書きには以下のような副作用が記載されています。
一般的なものとしては、皮膚症状(発疹、発赤、かゆみ)、消化器症状(吐き気・嘔吐、食欲不振、胃部不快感、腹部膨満、はげしい腹痛を伴う下痢、腹痛)、精神神経症状(めまい)、その他(発汗、動悸、むくみ、頭痛)などがあります。
また、重大な副作用として、間質性肺炎、偽アルドステロン症、ミオパシー、肝機能障害、黄疸があげられています。
鍼灸治療の経過
防風通聖散を服用しないと数日も排便がないため、鍼灸治療を週1回行いながら、防風通聖散を1錠ずつ徐々に減量していきました。
鍼灸治療開始時(防風通聖散を9錠服用していた時の排便の状況)
防風通聖散を9錠服用していた時は、毎日、排便はあったものの硬いコロコロの便(兎糞便)が少量しか出ず、残便感もありすっきり出ない状態が続いていました。
鍼灸治療10回目(防風通聖散を7あるいは6錠服用していた時の排便の状況)
防風通聖散を2あるいは3錠減量しても排便は毎日ありました。
まだ時々、コロコロの硬い便の日もありましたが、やや硬い便や普通便の日もあり、便の状態が改善しました。
残便感も減少しました。
鍼灸治療15回目(防風通聖散を4錠服用していた時の排便の状況)
防風通聖散を5錠減量しても排便は毎日ありました。
便は硬いコロコロの便の日はなくなり、硬い便、やや硬い便、普通便となりました。
残便感もほとんどなくなりました。
鍼灸治療20回目(防風通聖散の服用をやめた時の排便の状況)
防風通聖散の服用をやめても排便は毎日ありました。
便はコロコロの硬い便の日は少なくなり、硬い、やや硬い、普通便となりました。
残便感も減り、すっきりと排便できる日が増えました。
まとめ
排便の目的で毎日9錠服用していた防風通聖散を1錠ずつ徐々に減量し、約4ヵ月で服用しなくてもよくなりました。
現在は防風通聖散を飲まなくても毎日、排便があり、便の状態は硬いコロコロの便(兎糞便)の日は少なくなり、やや硬い便あるいは普通便になっています。
残便感も減り、すっきりと排便できる日が増えました。
防風通聖散を毎日、服用していた時と服用をやめてからの排便状態を比べると、服用しなくなってからの方が良いように感じます。
10年以上、毎日、服用していた防風通聖散を服用しない状態が1ヵ月続いているが、以前と比べて排便の状態は改善しています。