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エビデンス

大うつ病性障害に対する経皮的耳介迷走神経刺激療法の効果 −ランダム化比較試験によるパイロット研究−

2016年に『Journal of affective disorders』という医学雑誌に掲載されたうつ病に対する経皮的耳介迷走神経刺激治療(taVNS;transcutaneous auricular vagus nerve stimulation)の効果に関する論文を紹介します。

この研究は、アメリカのハーバード大学,マサチューセッツ総合病院と中国の中国中医科学院広安門医院、北京中医薬大学附属護国寺中医医院との共同研究です。

 

Rong P, Liu J, Wang L: Effect of transcutaneous auricular vagus nerve stimulation on major depressive disorder: A nonrandomized controlled pilot study. J Affect Disord. 195:172-9. 2016.

 

うつ病患者に3ヵ月の継続した経皮的耳介迷走神経刺激治療(tVNS)を行い、シャム(偽)の経皮的耳介迷走神経刺激治療(stVNS)との効果の差について調べた結果、真の経皮的耳介迷走神経刺激治療(tVNS)の方が、うつ症状と不安感を有意に軽減し、寛解率を向上させたことを明らかにしています。

目次

研究の背景

大うつ病性障害(MDD;major depressive disorder)は、世界的に見て障害の主要な原因の第4位であり、2020年には第2位なると予測されている。
大うつ病性障害(MDD)の患者は、精神的、身体的、社会的な生活の質(QOL)の低下を経験し、この障害は重症度にともなって増加する。
抗うつ薬は、うつの最初の治療として考慮されるが、最大で68%の患者が3ヵ月以内に抗うつ薬の服用を止めている。
大うつ病性障害(MDD)の約50%の患者が最初に抗うつ剤を経験し、その三分の一の患者が寛解を経験するが、その半数は再発する。

迷走神経刺激療法(VNS;vagus nerve stimulation)は、治療抵抗性うつ病の治療法としてFDA (アメリカ食品医薬品局;Food and Drug Administration) にも承認されている。しかし、外科手術のリスクや副作用により制限される。
迷走神経刺激療法(VNS)の欠点を改善するために、非侵襲的な経皮的迷走神経刺激療法(taVNS;transcutaneous auricular vagus nerve stimulation)が考案されている。
耳介は、求心性の迷走神経が人体の体表面に分布している唯一の場所である。
電気刺激の伝達は、末梢神経から脳幹や中枢神経に伝えられる。

過去の研究では、37人の大うつ病性障害患者に抗うつ薬治療と併用して、経皮的迷走神経刺激療法(taVNS)が行われた。
その結果、治療2週間後に、真の経皮的迷走神経刺激療法(taVNS)の方がシャム(偽)の経皮的迷走神経刺激療法よりもBeck Depression Inventory (BDI)が有意に改善した。しかし、Hamilton Depression Rating Scale (HAMD)は差がなかった。

本研究では、軽度・中等度の大うつ病性障害(MDD)患者に、経皮的迷走神経刺激療法(taVNS)を単独で行い、その抗うつ効果について検証した。

研究対象

160人の軽度・中等度の大うつ病性障害患者

参加基準
①ICD-10の診断基準による軽度(2つの典型的な症状と2つの他の主要症状)、中等度(2つの典型的な症状と3つの他の主要症状)のうつエピソード
②ハミルトンうつ病評価尺度 (HAM-D)のスコアが8〜35
③18〜70歳
④介入開始前の2週間に抗うつ薬、抗精神病薬の服用を止める
⑤症状がみられてから2週間〜2年

研究方法

・介入群:経皮的迷走神経刺激療法(tVNS)を受けた84人
 刺激部位:迷走神経耳介枝が分布している耳甲介(auricular concha)
 真の経皮的迷走神経刺激療法(tVNS)を12週間継続

・コントロール群:シャム(偽)の経皮的迷走神経刺激療法(stVNS)54人
 刺激部位:迷走神経耳介枝が分布していない舟状窩(superior scapha)
 シャム(偽)の経皮的迷走神経刺激療法(tVNS)を4週間行い、その後真の経皮的迷走神経刺激療法(tVNS)を8週間継続

【刺激方法】
 患者自身が電気刺激装置を操作して電気刺激を行った。
 1日に2回、20Hzで耐えうる強さの電流(4〜6mA)を30分間流した。


【評価方法】
 ・Hamilton Depression Rating Scale (HAM-D);ハミルトンうつ病評価尺度
 ・Hamilton Anxiety Rating Scale (HAM-A);ハミルトン不安評価尺度
 ・Self-Rating Anxiety Scale (SAS);Zung自己評価式不安尺度
 ・Self-Rating Depression Scale (SDS);Zung自己評価式抑うつ尺度

結果

4週間後の真の経皮的迷走神経刺激療法(tVNS)とシャム(偽)の経皮的迷走神経刺激療法(stVNS)の比較

ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)のスコアが、真の経皮的迷走神経刺激療法(tVNS)とシャム(偽)の経皮的迷走神経刺激療法(stVNS)によって減少したが、真の経皮的迷走神経刺激療法(tVNS)の方が有意により減少した。

ハミルトン不安評価尺度(HAM-A)、Zung自己評価式不安尺度(SAS)、Zung自己評価式抑うつ尺度 (SDS)においても類似した結果となった。

経皮的迷走神経刺激療法(tVNS)による反応率(ハミルトンうつ病評価尺度のスコアが50%減少した患者の割合)

真の経皮的迷走神経刺激療法(tVNS)による反応率は、治療4週間後で27%(24人)、8週間後で53%(46人)、12週間後で80%(67人)と増加した。

一方、シャム(偽)の経皮的迷走神経刺激療法(tVNS)による反応率は、治療4週間後で0%(0人)、8週間後で13%(7人)、12週間後で39%(21人)であり、真の経皮的迷走神経刺激療法(tVNS)より低かった。

経皮的迷走神経刺激療法(tVNS)による寛解率(ハミルトンうつ病評価尺度のスコアが8未満に減少した患者の割合)

真の経皮的迷走神経刺激療法(tVNS)による寛解率は、治療4週間後で3%(3人)、8週間後で26%(22人)、12週間後で39%(39人)と増加した。

一方、シャム(偽)の経皮的迷走神経刺激療法(tVNS)による寛解率は、治療4週間後で0%(0人)、8週間後で5%(3人)、12週間後で17%(9人)であり、真の経皮的迷走神経刺激療法(tVNS)より低かった。

考察

本研究で、軽度・中等度の大うつ病患者に経皮的迷走神経刺激療法(tVNS)を3ヵ月間行ったところ、偽の経皮的迷走神経刺激療法(tVNS)に比べて、真の経皮的迷走神経刺激療法(tVNS)においてうつ症状の軽減がみられた。
3ヵ月間の経皮的迷走神経刺激療法(tVNS)によって、うつ症状(ハミルトンうつ評価尺度(HAM-D)とZung自己評価式不安尺度(SAS)のスコアの減少)だけでなく不安感( ハミルトン不安評価尺度(HAM-A)とZung自己評価式不安尺度(SAS)のスコアの減少)も軽減した。

さらに我々は、重症度の違いによる経皮的迷走神経刺激療法(tVNS)の効果を調べた。
その結果、経皮的迷走神経刺激療法(tVNS)は、ハミルトンうつ評価尺度(HAM-D)のスコアが20以下の軽度な症状を有意に軽減した。
軽度なうつ病は通常、抗うつ薬にすぐに反応しない。今回の結果から、経皮的迷走神経刺激療法(tVNS)は、軽度・中等度の大うつ病の治療の第1選択肢に考慮されるかもしれない。

迷走神経の約80%は知覚性の求心性線維で構成されている。
迷走神経刺激の抗うつ効果は、気分や不安感を調節している脳部位(扁桃体、視床下部、島、視床、眼窩前頭皮質、他の辺縁系など)へ直接的・間接的に連絡している脳幹の延髄にある弧束核(NTS;nucleus tractus solitaries)への迷走神経の求心性線維の投射によるものと考えられている 。

近年、迷走神経刺激(VNS)と経皮的耳介迷走神経刺激(taVNS) に関するヒトを対象としたfMRIを用いた研究も多く行われている。
耳道の前壁を刺激すると海馬傍回と後帯状皮質の辺縁系、視床、青斑核、弧束核の不活化がみられたことが報告されている。
大うつ病性障害患者に経皮的耳介迷走神経刺激療法(taVNS)を4週間行った結果、デフォルトモード・ネットワーク(DMN)と島の前部、海馬傍回との機能結合の減少およびデフォルトモード・ネットワーク(DMN)と楔前部、眼窩前頭皮質との機能結合の増加が認められた。
これらの機能結合の変化は、ハミルトンうつ評価尺度(HAM-D)のスコアの減少と関連していた。

結論

真の経皮的耳介迷走神経刺激療法(taVNS)はシャム(偽)の経皮的耳介迷走神経刺激療法(taVNS)に比べて、有意にうつ症状を軽減した。
本研究の結果は、非侵襲的で安全、低コストの経皮的耳介迷走神経刺激療法(taVNS)が、軽度・中等度のうつ病患者の治療法としてのエビデンスを提供している。

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